姉崎のマラドーナ、ジェフの“誇り”を見せ付ける -第27節・京都戦-

NO IMAGE

J1残留に向けた一戦必勝の長丁場。
試合前に入ってきた横浜・神戸勝利の一報は、西京極に集ったジェフサポーターの気持ちを引き締めるのに十二分過ぎる知らせだった。前節・首位だった名古屋に渾身の勝利を収め、中3日で迎えた京都戦。きりきりと臓物を締め付けられるような日々の中、長蛇の列をつくるサポーターに明るさが戻りつつあるのは、三連勝と言う結果もあるだろうが、自分達の応援が選手の後押しになっていると言う、自信があるからではないだろうか。前節の、あのフクアリの空気を感じたなら、誰もがまたスタジアムに駆けつけたい、そう思った事だろう。


この日の対戦相手は京都。
いわずもがな、昨年までの主将・佐藤勇人と、“出場機会を求めて”ガンバから移籍した水本裕貴の在籍するチームである。京都と言うチーム云々よりも、この二人に対して思うところのあるジェフサポーターは多かっただろう。自分もその一人。ユース在籍の頃から勇人の試合を観続け、水本のユニをここ三年の間着続けていた。

選手の移籍には様々な理由がある。
在籍するチームの様々な状況に耐えられなくなったり、金銭面を含めより良い条件を求める為であったり、出場機会を求める為であったり、自分のサッカースタイルを追い求めるためであったり。
彼らの短い選手生活を、サポーターが保障できるわけでもない。止める権利など無い。いくら勝手な願いを押し付け、希っても、それが受け入れられる事はほとんどない。それでも、サポーターの感情として、割り切れる移籍と、そうでない移籍がある。
この二人の移籍は、間違いなく後者のケースだ。
昨年まで、黄色いユニフォームのエンブレムを叩いていた者と、日本一のDFになると言いジェフを離れながら、その競争から遁走した者。

ブーイングするのも勿体無い。
勝ち点35。9位の京都。一つの勝ち負けで、途端に残留争いに引きずり込まれる位置。J2の苦しさ、昇格の難しさは彼らの方が余程良く知っているだろう。にも関わらず、弛緩した西京極の空気が妙に許せなかった。この空気の中に、何故彼らは身をおいているのかと。何をここに求めたのか、自分にはわからなかった。

だから、試合でも、応援でも、絶対に勝ちたいと強く思った。
ジェフで戦う事を選び、この苦難に正面から立ち向かっている選手達、そしてこの西京極を黄色く染めたサポーターたちと。

メインスタンドに夕日が暮れ、古都に「WIN BY ALL!」コールが響く。
球団旗と、ユニフラッグが、振り回されるタオルマフラーの黄色い波に浮かぶ。

ミラー監督は、AWAYの戦いを選択してきた。
谷澤と深井を共に温存した選択には、サポーターの誰もが驚かされた。
コンディションを重視したターンオーバー。成功すれば、体力の温存のみならず、選択肢の増えた攻撃陣の競争を促し、さらなるやる気を引き出す事が出来る。

代わりに先発起用されたのは、新居と戸田。
布陣的には、新居と浩平が両翼になる・・・かと思われたが、ミラー監督のコメントからしても、新居はFW起用。ミシェウの位置は中央で変わらず、左に大きな穴が開いた。

----11--18----
■■---44---07-
----41--06----
-31--04--14--02
------30-----


左に空いた穴は、新居が下がるか、戸田が埋めるか、良太がフォーローする。しかし、無理は出る。ミシェウを左に置く意図は無い?守備的な戦いと、この変則的な布陣が、時間と共に京都ペースの試合を作っていった。

対する京都は、フェルナンジーニョが何故か先発落ち。
お互い様とも言えるが、攻撃のキーマンを温存。代わって、元磐田の西野が3トップの一角に入る。また、中盤には元名古屋で左サイドを主戦場とする中谷が、佐藤勇と並んで起用されていた。

ジェフは、バランスに苦しむ事になる。
前回の名古屋戦では、キープ力のあるレイナウド、機動力と突破力を兼ね備えた谷澤と深井、それにボランチに入った浩平が、ミシェウの周囲を頻繁に動き回って、彼が孤立しないように援護していた。
ところが、この試合では、タメは作っても、なかなかパスの出しどころが無い。キープして、出しどころを探すうちに、囲まれて身体を当てられ、ボールをロストする場面が目立った。

ミシェウを潰されたところが、京都のカウンターの基点になる。
柳沢の動き出しは、好調なだけあってさすがにいやらしく、その柳沢を最前線の基点にされて、次々とチャンスを作られてしまう。運動量の差も大きかった。やはり、一週間試合が空いた京都の方が動きが鋭い。ジェフは、前線をターンオーバーさせながらも、機能しなければその意味もあまりなかった。

守備的な戦いを選択する中、奮闘したのは守備陣だった。
柳沢・佐藤勇らの際どいシュートをブロックし続けた岡本をはじめ、負傷を押して出場した青木良太らが、一つ一つのピンチを冷静に対応していく。

前半、チャンスは少なかったが、新居の強烈なシュートもあった。
ただ、攻め立てられながらも、温存している選手達の存在があったから、悲観的になる事は無かった。ここがAWAYである事を考えれば、最終的に勝ち点3をもぎ取る事が出来れば、その過程はどうであってもいい。前半0-0も上等ではないかと。

後半も我慢の展開が続く。
前半の不規則な布陣もそのままのようだ。
ミラー監督は、時折サブのメンバーに声をかけるものの、交代までには至らない。ジリジリと過ぎていく時間。「あっ」と言う声の先で、西野の強烈なミドルシュートを、岡本が横っ飛びで弾き返す。攻める京都と、守るジェフ。我慢比べだ。

19分、ミラー監督が一枚目のカードを切る。
厳しいマークに遭っていたミシェウに代えて、深井。縦横無尽にピッチを切り裂きまくる、この深井が入った事でゲームが動き出す。押されっぱなしだったジェフが、深井に引っ張られて盛り返す。少し及び腰になった京都のマークが甘くなる。
すると、最後方からボールを持ち上がった浩平が、坂本にボールを預ける。坂本は、素早く前線の巻へパス送る。このボールを、京都の水本がカット。インサイドでクリアしようとする。低い。そのクリアが来るのが分かっていたように浩平がそのボールを引っ掛ける。舞い上がったボールを、巻が水本と競り合って、バックヘッドで前方にそらす。巻が競り勝つ事も予測しきった浩平が、ボールを再び受けてシュート体制に入る。DFに囲まれながらも、一瞬、中の新居を見て、遅くなったかとも思ったが、次の瞬間、コントロールされたシュートがサイドネットに突き刺さった。

一気に弾けるジェフサポーター。
前期と同じ、生え抜きの浩平の一撃に、スタンドは最高潮となる。
がっくりと膝をつく水本。ミスパスになったインサイドキックは、フィードの精度にいまだ不安を抱える、彼特有のものにも思う。プレーヤーズカードでも、彼がインサイドで蹴る姿が度々使われていた。4バックのセンターで、敵味方入り混じる前線にパスをしようとする時、前振りが大きくて分かりやすく、狙われ易いパス。それを、浩平も巻も、よく分かっていたように思う。

押し込みながら先制を許した京都は、温存していたフェル
ンジーニョを投入して打開を図る。しかし、さらに前がかりになった京都の裏を、深井・浩平・新居が狙っていく。浩平のクロスに新居がボレーで合わせた29分のプレーなど、逆にジェフのシュートが増えていく。

そして、今のジェフは、守りきると決めて、それをやり遂げることが出来る。
クローザーとして投入されるレイナウドが、ボールをキープしては京都陣内深くまで運び、戸田に代わって送り込まれた大さんが、冷静に敵の突破を食い止めていく。
ロスタイムは3分。その3分間もしっかり集中し、試合を締める。四連勝。9月、負け無しだ。


苦しい内容だった。
内容だけならば、京都の方が良かったと言わざるを得ない。けれども、今のジェフに必要なのは何よりも勝ち点3。それをもぎ取った事が全てだ。守備的に戦い、戦力を温存しながら、勝ち点3を奪う。やりきった結果の勝利だ。
選手達の充実した笑顔が、全てを物語っている。それを迎える黄色いサポーターの大歓声。苦しい時があるからこそ、お互いに喜びが分かち合える。素晴らしい瞬間だった。

しばらくして、ヒーローインタビューを終えた浩平が戻ってくる。
そう、この浩平がまたもゴールを決めたことも大きな喜びだ。地元・姉崎。ジェフユース出身。姉崎のマラドーナと呼ばれる彼が決めた点だからこそ、意味がある。

ジェフは、ジェフの道を行くだけだ。このクラブを選んだ選手達と共に。
今節、下位チームが揃って勝利した。安全圏はいまだ遠く、まだまだ厳しい戦いは続く。残り7試合。一戦必勝。

(追伸)
林の200試合記念セレモニーに、帰宅してビデオを見てから気がついた(汗)
その場で気づいても、たぶん、流れ的にコールは出来なかっただろうけど。。。
おめでとう、タケ。出来れば、そのセレモニー、黄色いタケで見たかったけどな。
まだまだこれからだ。スタメン、獲るんだぞ。