雨中に消えた勝ち点3 -第11節・清水戦-

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雨の日本平には良い思い出が無い。
照明灯に照らされる大粒の雨を見やりながら、停電の日や、優勝が霧散した過去の日が思い出される。

デーゲームで、順位の近いチームが軒並み勝利したこの日。
勝たなければ離される。意地でも勝つぞ、過去が何だと意気込んで戦った一戦。
勝利は目前だったが、またも最後の最後で、今のチームの力の足りなさを思い知る結果になってしまった。


この日、ジェフは初めて外国人3人を先発させた。
実際の布陣は少し異なるかも知れないが、ミシェウが前目に構えていた。

----巻誠----
谷澤--ミシェウ--深井
--アレックス--大輔--
良太------和田
--エド--坂本--
----岡本----

対する清水は、ヨンセンがサブで、永井と岡崎の2トップ。
ジェフ側からすれば、往時の力は無いとは言え、苦手としているヨンセンが居ないのは、やり易い事に違いなかった。

前半、豪雨のためボールコントロールに苦しむ展開ながら、主導権を握ったのは純国産布陣の清水。ボールを繋ぐ意識が強く、しっかりと組み立ててフィニッシュまで持ち込む。
ジェフは、ここ数試合ラインが高くキープ出来ていたものの、この試合ではそれが出来ない。プレスまではかけるが、その後が続かず、少しずつラインが下げられていく。

劣勢の中、奮闘したのはGK岡本だった。難しいコンディションの中、いくつかの決定機を紙一重で弾き返し、ゆっくりとした球出しでバタバタした時間を落ち着かせる。彼には失礼な話だが、これまでに無い大人びた戦いぶりだった。
その岡本の頑張りに応え、守備陣も身体を張ってボールを弾き出す。

耐える展開。その中で望外の先制点が入る。
アレックスのFKのこぼれ球を、右足で豪快に突き刺す大輔。貴重な一撃だった。

逆に、ペースを握りながら決定力を欠いた清水は、この失点で浮き足立つ。
攻めに急ぐ選手と、それまでと同じペースで戦おうとする選手、意思疎通が上手くいかなくなったのか、パスミスが目立つ。前半は、そのまま1-0で終える事が出来た。

後半。
さらに前に出ようとする清水の裏をジェフが衝く。
何度かあった、カウンターの機会。珍しく左右の展開から、谷澤のクロスに飛び込んだのは、なんと小兵のミシェウ。ヘッドで突き刺し、2点差とする。

まだ時間があるのに、少々浮かれすぎのミシェウに違和感を覚える。
スタンドからも「集中」「浮かれるな」と声が飛ぶが、追加点の直後のチームのプレー自体は、それまでと変わりなく、問題は無い様に見えた。

こうなると、残りの時間をどう勝利に向けてクローズしていくか?と言う事になる。
それに対して、ミラー監督はまずミシェウに代えて下村を投入。ミシェウがイエローを受けていたこともあるし、コンディションの悪い中で、フィジカルがありフレッシュな下村を投入する事で、相手の機先を制して中盤を引き締める意味でも妥当だろう。大輔を完全なアンカーにし、サイドのケアも出来る。

さらに、前半から猛烈なプレスで戦い続けていた深井に代えて新居。
前に出ようとする清水のDFの裏にを狙い、相手の腰を引かせるために、これも意味ある一手だったと思う。

----巻誠----
--新居----谷澤
--アレックス--下村--
----大輔----
良太------和田
--エド--坂本--
----岡本----

問題は。
清水がヨンセン・原を同時投入した時に、勝ちを意識したチーム全体が引いてしまったことだ。残り15分の時間を、ただただ守る事が出来るほど、ウチの守備は堅くない。そして、2-0と言うスコアがどれだけ怖いかは、身をもって分かっていたはずだった。

だが、ラインはズルズルと下がり、ヨンセンを目掛けたクロスを受け続ける事になる。
そして36分、清水の総攻撃戦術が成功し、1点差に攻め寄られる。
だが、まだ1点差がある。ミラー監督も、ベンチから飛び出して、チームを落ち着かせようとジェスチャーをする。慌てる必要は無かった。

直後、もう一つの転機が訪れる。
左中央を駆け上がった新居に、最高のボールが飛ぶ。これを収められれば、完全に1点と言うシーンだった。だが、ボールは新居の意のままにならない。少しブレたボールを持ち直し、右を駆け上がったアレックスへ。撃てなくも無いシーンだったが、さらに中央を駆け上がった、下村と谷澤に向けてボールを折り返す。
フリーな場面、決めなくちゃいけない場面だったが、ボールはバーの上を過ぎていった。

チームとして、ここを決められなかった事が、この日の結果に繋がった。

同点のシーン、谷澤があの位置で守備に追われていた時点で、清水の戦術は成功といえる。最後の最後まで、岡本が意地を見せて弾き返したが、こぼれ球にフリーで詰められては、成す術がない。
オレンジに染まったスタンドが雪崩のように立ち上がる。
静まり返る黄色いスタンドまで、岡本の絶叫が聞こえた様な気がした。

残り時間、最後まで戦い続けたが、もはや、1点を奪う力は残っていなかった。
試合終了の笛と共に、ずぶ濡れになった身体に一気に重みが増した。

「何でウチのチームは、同じ事を繰り返すんだ」
誰かの声がした。
挨拶にやってきた選手たちの疲れきった顔。厳しい叱責の声、励ましの声、バラバラの声が降り注ぎ、帰ろうとする選手たちの背中に「千葉」コールが送られた。どんなにボロボロでも、試合はすぐにやって来る。コールは、サポーターが、自身を奮い立たせようとしているようにも聞こえた。

この展開で、勝てずしていつ勝つのか、そう言う戦いだった。
交代策も含め、今出来る最善を尽くした試合だったと思う。けれども、勝てなかった。最後の最後で、勇気を出してラインを上げる事が出来なかった。ただ受身になるのではなく、主導権を持って守り、いなす事が出来なかった。
自らに「自信が無い」から、それが出来ない。
そして、この負けでさらに自信は揺らいでしまった。

けれど、ピッチで戦うのは選手たちだ。
後ろ向きになる気持ちを吹っ切るしか、この状況は打開出来ない。

「惜しい」では足りない。勝たなくては意味が無い。

午前2時。
千葉まで帰って来た自分の乗る車を、黄色いリボンマグネットをつけたミニバンが追い越して行った。一人で戦っているわけじゃない。
次こそ、勝たなくてはならない。だれかのせいにして逃げるのではなく、皆の力で勝ったと胸を張れるように。